ACTIVITY最近の研究活動
アンゼルム・キーファー「星空」国立国際美術館蔵
講演会
2019年に、当研究所では岐阜県各務原市が所蔵する同市出身の画家坪内節太郎が描いた油彩画、合計16点を修復しました。
各務原市中央図書館で企画展「所蔵絵画を視るー坪内節太郎作品修復その後」が、2020年2月2日まで開催中です。その修復についての講演会「油彩画の修復についてー各務原市所蔵、坪内節太郎作品群の修復に焦点を当ててー」を、所長・渡邉郁夫が1月19日に各務原市中央図書館で行いました。
受賞報告
2019年6月23日、文化財保存修復学会第41回大会において、イコン修復・調査研究分野に於ける貢献を評価され、田中智惠子が第十三回業績賞を頂戴いたしました。所長・渡邉郁夫に続き、当研究所では二人目の受賞です。 これからもイコン研究ならびに文化財保存修復のため、一層の研鑽を積み、精進して参りたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
交流報告 ポツダムのプロイセン城郭庭園財団との交流
2018年11月29日から12月10日にかけて、渡邉郁夫所長、有村麻里、富山恵介の所員3名が、ヨーロッパを訪れました。11月10日には、プロイセン城郭庭園財団の招聘を受けて、渡邉がポツダムのサンスーシ宮殿にて講演を行い、2000年にパリで手がけた藤田嗣治「欧人日本へ渡来の図」の修復プロジェクト以来、研究テーマとしていた藤田嗣治の技法に関する報告および、赤坂迎賓館天井絵画修復について報告しました。この講演会は、マーレイ財団レクチャーシリーズの一環として計画されたものです。その後、ポツダムの絵画修復工房のほか、ドレスデンアルテ・マイスター絵画館、ウィーン美術史美術館の工房を見学し、非常に実りの多い研修旅行となりました。今回得られた成果を、研究所における日々の修復の場に積極的に反映させていきたいと思っています。
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1.ポツダム 絵画修復工房での見学
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2.ポツダム 額修復工房での見学
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3.ポツダム サンスーシ宮殿全景
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4.ポツダム サンスーシ宮殿
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5.ドレスデン アルテ・マイスター絵画館修復工房
交流報告 サンクトペテルブルグのイコン修復家、タマーラ・ミチナ氏来所
東京藝術大学大学院文化財保存学保存修復油画研究室の客員教授として招聘された、サンクトペテルブルグのイコン修復家、タマーラ・ミチナ氏が3月20日に来所されました。一年間の滞在中、修復研究所21のスタッフと活発な交流を行い、親睦を深めてきました。まもなく帰国されます。タマーラ先生の一層のご活躍をスタッフ一同お祈りいたします。
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1.タマーラ・ミチナ氏、左は夫君のセルゲイ・ダニェーヴィッチ氏
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2.タマーラ先生と記念撮影
交流報告 ドイツ・プロイセン城郭庭園財団絵画修復工房主任ヤキッシュ氏来所
ドイツ・プロイセン城郭庭園財団絵画修復工房主任で、長年、修復研究所21と情報交流を行ってきたベルベル・ヤキッシュ氏が、2017年9月に来日しました。当修復研究所を見学し、油彩画修復の技法材料を中心に所員と意見交換の場を持ったほか、現在作業中の赤坂迎賓館天井絵画修復の現場を視察し、関係者を対象とするミニレクチャーを行ないました。
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1.ヤキッシュ氏と歓談する渡邉所長
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2.サンスーシ公園内ノイエスパレ(ポツダム) ヤキッシュ氏の修復工房が入っている。
研究報告 ルーマニア正教会壁画の調査に参加しました。
2011年から2012年にかけて、ルーマニア中部の教会壁画の修復作業に日高翠氏(現在、東京芸術大学大学院講師;修復油画)が参加し当研究所では試料片の検査に協力しました。
教会はルーマニア正教会で、首都ブカレスト西方、約150Kmにあるホレズ修道院です。
青色顔料のひとつにスマルトが使用されていました。カリウムガラスを元にコバルトを主たる発色剤とした一般的なスマルトのほかに、ソーダガラスが元になった珍しい例も検出されました。
これらの結果が昨年、イタリアの雑誌European Journal of Science and Theology(June 2015 Vol.11 No.3 P.231-239.)に掲載されました。
遡って2005年から2010年にかけては、イタリア北東部、ラヴェンナのガッラ・プラチディア廟、モザイク壁画保存修復調査に工藤晴也教授(東京芸術大学大学油画壁画)の研究室が参加し、この時も当研究所では2007年から試料片の検査に協力しました。モザイクの元の青色ガラスでは、エジプトブルーに似た発色成分を持つ例が検出されました。エジプトブルーも下層描きの顔料として検出されています。
これらの結果は東京芸術大学美術学部紀要、第45号平成19年12月(Dec.2007)57-92頁、第47号平成22年1月(Jan.2010)59-92頁、第51号平成25年12月(Dec.2013)5-30頁にまとめられて掲載されています。
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1.ホレズ修道院
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2.聖堂内壁画
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3.聖堂内壁画
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4.聖堂内壁画
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5.聖堂内壁画
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6.ホレズ修道院
受賞報告
2016年6月26日、文化財保存修復学会第38回大会において、業績賞を頂戴いたしました。業績賞は、文化財の保存及び修復分野において著しい功績があった者に贈られる賞ということですが、今回の受賞は決して私個人に与えられたものではなく、これまで修復研究所を支えてきた歴代所員及び現在のスタッフたちの功績に対して贈られたものだと思っております。 これからも文化財の保存修復のため一層の研鑽を積み、所員一同心を合わせて努力する所存です。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
修復研究所二十一代表 渡邉郁夫
交流報告 祭壇画修復シンポジウムに参加しました。
2015年秋、ドイツでの祭壇画修復シンポジウムに参加しました。
ドイツ東部、メクレンブルク=フォアポンメルン州の小都市、ギュストローの聖母マリア教区教会は、「ボーマン祭壇」と呼ばれる16世紀初頭フランドル製の素晴らしい祭壇を有しています。当時最新の彫刻および油彩画の技術が結集された見事な祭壇は、東西ドイツ統合のころから経年による劣化・損傷が著しく目立つようになり、1992年以降、フリーの修復家たちが半ばボランティアで現状保存に努めてきましたが、2010年、ベルギーのボードワン国王基金の援助を受けて、ようやく本格的な修復プロジェクトがスタートしました。当研究所の渡辺郁夫は、在独中の2010年前半期、プロイセン城郭庭園財団の紹介を通じてこのプロジェクトに参加協力する機会を得ることができました。
ブリュッセル大学のカトリーヌ・ペリエ=ディレトラン名誉教授、ドレスデン美術アカデミーのイーヴォ・モーマン教授を中心に、ドイツ、ベルギーの多くの修復家が参加して進められたこの修復プロジェクトは、2014年に完成し、翌2015年9月12日、その総括と一般報告を兼ねたシンポジウムが、現地ギュストローの聖母マリア教区教会にて、美麗に修復されたボーマン祭壇を前に行われました。
シンポジウムの前日には、近郊の都市で、世界遺産にも指定されているヴィスマールへの見学バスツアーがありました。ハンザ都市として知られるヴィスマールの教会建築は、ギュストローのそれと共通する点が多く、こうした観点から、地元の郷土史研究家によって詳細なガイドがなされました。とりわけ、ニコライ教会の聖ゲオルク祭壇画に関しては、ギュストローのプロジェクトの主要メンバーで、かつてこのゲオルク祭壇画の修復をも手がけたマルティナ・ルンゲ氏による技術的な解説が、参加者の強い関心を引きました。
12日のメインシンポジウムでは、ペリエ教授、ルンゲ氏のほか、すでに1990年代から祭壇の本格的修復の必要性を地道に主張し続けたフョルカー・エーリヒ氏、ポツダム、サンスーシ宮殿絵画修復工房のベルベル・ヤキッシュ所長など、プロジェクトに関わったスタッフらによる画像や分析写真を交えた詳細な報告が行われました。これらの報告には、わたしたちの工房で日常行われている絵画や壁画、彫刻などの修復作業にとって直接のヒントとなる情報も多く含まれており、今後、よりよい修復のメソッドを探っていくための貴重な機会となりました。これからも、国内外のこのような情報交換の成果をじっさいの仕事の場に積極的に生かしていきたいと思っています。(I.W)
なお、ギュストローの修復プロジェクトの詳細は、以下の出版物を通じて公開されています。
Catheline Perier-D’Ieteren, Ivo Mohrmann (Hrsg.), Der Passions-Altar der Pfarrkirche St. Marien zu Güstrow. Historische und technologische Studie, Bruxelles 2014
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1.ギュストロー 聖母マリア教区協会
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2.正面に聖母マリア教会ボーマン祭壇を望む
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3.ボーマン祭壇 パネルを回転させ画像を開けるところ。
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4.講演風景
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5.ボーマン祭壇画を調査する筆者
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6.ギュストローの街並み
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7.ヴィスマール ニコライ教会
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8.ニコライ教会 ゲオルク祭壇画の前で、修復について解説をするルンゲ氏
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9.ヴィスマールの街並み
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10.報告書
交流報告 ウィーン美術史美術館絵画修復室のイングリット・ホプフナー氏とエファ・ゲッツ氏来所
平成27年8月31日に、ウィーン美術史美術館絵画修復室のイングリット・ホプフナー氏によるレクチャーが、当研究所で催されました。ちょうど修復が完成したばかりの、ガロファロ作祭壇画「キリストの復活」についての報告もあり、たいへん興味深い内容でした。
この祭壇画はもともとフェラーラの大聖堂に納められていたもの。17世紀、教会の大改修にともなって撤去され、ブルボン・パルマ家の手に渡ったのち、1960年代になって当時ウィーンに暮らしていた当家の末裔の姫君から美術館が買い上げたとのことです。
その後数度にわたって修復の話が持ち上がるも、損傷のひどさから何度も棚上げになっていたところ、研究者たちの熱心な調査のすえ、7年にもおよぶ作業を経て、この夏ようやく展示可能な状態になりました。先々週、ウィーンのイタリア展示室に念願のデビューを果たしたばかり。
レクチャーのあとは東京藝術大学の保存修復の学生も交え活発な意見交換が行われました。
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レクチャーの様子
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イングリットさんとエファさんを囲んで
修復事例 徳永柳州が関東大震災後の様子を描いた油絵3点を修復しました。
徳永柳州が関東大震災の様子を描いた油絵24点のうち3点が数年前発見され、昨年度当研究所で修復しました。
麻布に油絵具で描かれており、全国を展覧するため、軸装風に仕立ててありました。修復にあたり、再び軸装仕立てにすると損傷を招く心配があったことから、額装仕立てにして、上辺には八双、下辺には軸棒を取り付け、軸装の様子が伺える仕様にしました。
平成26年8月26日から 9月28日まで、復興記念館での特別展に出品されました。
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徳永柳州「酒匂川上空飛行機」修復後
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徳永柳州「伝書鳩」修復後
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徳永柳州「花屋敷」修復後 (3点とも東京都慰霊協会所蔵)
研究報告 『新出と既知の高橋由一「西周像」研究報告書』が発行されました。
昨年、神奈川県立近代美術館葉山館で行われた展覧会「美は甦る 検証・二枚の西周像 ─高橋由一から松本竣介まで」に引き続き、神奈川県立近代美術館学芸員らを中心とした研究者グループにより『新出と既知の高橋由一「西周像」研究報告書』(註)が発行されました。
新出と既知の、二枚の高橋由一作品「西周像」についての研究会が2011年に設けられ、美術史及び文献資料に基づく研究と、2作品の修復、光学調査、材料分析などが行われました。当研究所では光学調査の撮影を行い、宮田順一も研究会に参加して分析調査を担当しました。2014年2月20日に発行された『新出と既知の高橋由一「西周像」研究報告書』に 宮田の報告「 太皷谷稲成神社および津和野町郷土館所蔵の高橋由一「西周像」における2作品の試料片調査結果ならびに他の作品との比較」が掲載されています。高橋由一の使用材料が広範囲になる旨述べられて、原鵬雲作品(下段参照)でも確認された硫酸鉛やプルシャンブルーの検出例がまとめられています。
(註) この研究は平成23年度、24年度公益財団法人ポーラ美術振興財団の助成と、平成23~25年度科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号23520140)により行われました。
修復事例 原鵬雲「楠公桜井駅図」徳島県立近代美術館蔵
日本洋画草創期の絵師、原鵬雲(1835〜1879)作の「楠公桜井駅図」を調査・修復する機会がありました。調査結果は、徳島県立近代美術館での特別展「西洋美術との出会い 徳島の4人 原鵬雲|井上辨次郞|守住貫魚|守住勇魚」(2013年10月5日〜12月1日)のカタログに、当研究所の分析調査担当官・宮田順一の報告が掲載されています。
調査結果から浮世絵版画や幕末期の洋風画(油彩)に共通する材料が多く用いられていることがわかり、この作品が幕末から明治初期にかけて制作されたと推定することができます。
検出顔料の中で特に注目された点は緑色の成分です。プルシャンブルーとオーピメントの混合が主成分で、そのほかにバリウムイエローも微量成分として含まれています。さらに硫酸鉛と硫酸鉛カリウムが主成分となっています。この2種類の化合物は、絵画材料の技法書には記載がありませんが、高橋由一の作品などで検出例があります。元は白色です。油性では半透明を呈するともいわれているので、プルシャンブルーに混ぜられた可能性(体質顔料)が高いと考えています。
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原鵬雲「楠公桜井駅図」修復後
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断層図
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[研究所概要]ABOUT US
オリジナリティーを尊重する、
次世代へ作品と修復技術を伝えていく。 -
[21クオリティ]21 QUARITY
科学的アプローチを含め
レベルの高い修復技術にて対応。 -
[業務内容]WORKS
長年の研究から得た、確かな技術。
最適な方法により作品に寄り添い、修復。 -
[最近の研究活動]ACTIVITIES
絵画から立体まで。
多岐にわたる修復対象。
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